人間力を高める 一般社団法人 人間塾


vol.23「長所を活かす 」

vol.23「長所を活かす」

他人と比較してはいけない
ほんのわずかでも、できている部分を見つけ、
それを気づかせることが重要だ。
「アルフレッド・アドラー
人生に革命が起きる61/100の言葉」
小倉広著より

 

『工場長になりたいです。』

中途採用で面接に来た横山さん(仮名)が『将来の夢は?』と言う私の質問にそう
答えた。

当時私の役職は工場長。面接官の工場長に向かって工場長になりたいとは若いが
気概を感じるし、頼もしいじゃないかと期待した。

しかし、その期待はもろくも崩れ去ることとなる。
全く仕事が出来ないと言ったら言い過ぎかもしれないが、とにかく何をやっても
覚えが悪く、時間がかかる。
人当たりは良いので、色々な部署の管理職からうちの部署で任せてくださいと声
はかかるが、数ヶ月でどの管理職もさじを投げる始末。

本人と話をしてみると実家はプラスチック射出成形の工場を営んでいて、母親も
含め親戚全員総出とのこと。
『家族総出で家業を営んでいるのに、何故横山さんは手伝わないの?』と聞くと、
『大学に行きながら手伝っていたんですが、失敗ばかりでもう手伝わなくて良い
から家を出ろって言われたんです』と笑いながら話してくれた。

その瞬間私は正直 ”しまった” と思った。面接の時もっと良く話聞いておくべき
だったと…。
でもそれは後の祭りでいよいよ行く部署が無くなった横山さんは最終的には私の
直属の部下になった。

自分が採用したんだから責任もって育てなければと手取り足取り教えてみるが、
何をやらしても不器用でかなり時間がかかる。鈍くささに嫌気がさし、ついつい
注意する言葉の語気が荒くなる始末。そんな毎日が続いた。

そんな時読んだ本の中に『相手の長所を褒めて伸ばす』という事が書かれてあっ
た。今まで色々な本で何度も聞いたフレーズだが、褒めて伸びるんなら苦労はし
ないよなあと横山さんの顔を思い浮かべ、『あいつの良いところと言っても、あ
の腹立つぐらいに何も考えてなさそうな笑顔ぐらいかな…』と思ってため息が出
た。今更毎日怒っている私が『君の笑顔は最高だ!』なんて口が裂けても言えな
いな…

仕事の内容を褒めるのならまだしも、笑顔ってどうなのよと心では思いつつ、と
にかく実践あるのみと心に言い聞かせ、彼の笑顔を褒めることにした。
褒めることが下手くそだった私は最初『仕事はさておき笑顔だけは満点やな』と
素直な褒め方では無かったものの、横山さんは満面の笑みで『ありがとうござい
ます』と返してくれた。

また笑顔の彼に何か話しかけようと気にしているので、笑顔で無いときも観察す
ることが多くなり、今まで以上にコミュニケーションをとるようになった。
そうなると笑顔以外にも頼まれたことは残業や休日出勤してもやろうとする責任
感を持っていることに気がついた。

それまでは仕事の話以外はしなかったが、色々声をかけているうちに仕事以外の
話もしてくれるようになり、いつしか上司と部下の信頼関係も築けていることに
気がついた。
そのうち今までは怒られることにビクビクしていた彼も、頼んだ仕事をやってく
れたときは『ありがとう』と伝えることで、ますます責任感が出てきたようだっ
た。

そんな矢先彼から『家族から家業を手伝って欲しいと言われたので会社を辞めた
い』と相談を受けた。

一人前に成長し、社員間の潤滑剤的存在だった横山さんが辞められるのは本当に
痛かったが、横山さんの家族が彼の成長を認めた証でもあった事が私はとてもう
れしかった。

先日借りていた制服を返しに横山さんが会社を訪れた。
久しぶりに見る横山さんは、慣れない仕事に迷いながらも一生懸命頑張っている
ようだった。

『あんまり長く油売ってると、兄貴に叱られるんでこの辺で失礼します』
と言って去り際に振り返り満面の笑みを浮かべる彼を見て、家業の工場で日本一
笑顔の素敵な工場長となり働く姿を想像し『がんばれよ!』と見送った。
筆者:一般社団法人 人間塾
人生学認定講師 赤埴 忠至(あかばねただし)
⇒ http://www.ningenjuku.net/qualified-list/


利用規約